200年目の鐘



      Ding-dong 2
        〜名と契約と未来視〜

 水の神殿は巨大な湖の中に建っていた。 
 湖がこれほどにまで巨大なのにも関わらず、
その神殿には確かな存在感があった。
 海よりは浅く、水よりは深い色を持つ青い壁、そして四本のしっかりとした柱で支えられた入り口。
 比較的手前に建っているお陰で、入り口までは大して歩かずに済んだ。リラは頑丈にできたその扉に両手を添えると力いっぱい押し開けた。扉はわずかな音さも立てず不気味なくらい静に開く。
 中はひんやりとする空気が漂っており、広い廊下を少し行くと、一つの奇妙な部屋へとたどり着いた。
 ドーム状の丸みを帯びた天井。そして向こう側にある一枚の扉。そこだけ見れば何の変哲も無い部屋。
 奇妙な点は床の代わりに水が敷かれているという事。そして問題なのはそこまで行く道だった。
 扉までの距離は結構あるのにも関わらず、部屋いっぱいに広がった水の上にはボートもなければ橋一つない。
 近づいてそっとその水を掬い上げてみると、指や手の隙間からそれはさらさらと流れていった。どうみても唯の水にしか見えない。

(どうやって渡るんだ?)
 ラウルは小首をかしげながら深く何処までも続く水の底を、それに映った自分の顔を見つめていた。
 リラはその隣まで来ると、しゃがみこみ、水面に軽く指で触れた。
 ラウルがその様子を不思議そうに見つめている中、リラは立ち上がると水の上へと一歩踏み出した。
「え…?」
 ラウルには信じられなかった。だが、目の前に居る少女は、疑いようもなく水の上に立っている。
(唯の水じゃ…ない?)
「ラウル、手を」
 そう言ってリラは呆けているラウルの前に右手を差し出し
た。

(手をって、手を繋ぐのか?なんの為に…?)
 ラウルが躊躇しているのを見て、リラは手を差し伸べたま
ま、悲しそうに口を開いた。

「私が…怖いですか?」
「……」
「私が、決して笑わないから」
「え?いや」
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