200年目の鐘



           Prologue
             〜支配者〜

 森の中に広がる火の海。
それはある村から発生したものだった。女達は家を焼かれ、逃げようとして殺されている。村の中心の広場に集まった武装した男達の影が、炎に照らされてゆらゆらと動いていた。しかし動いているのは影だけでその中の者は誰一人として生きては居なかった。
 生きている筈が無かった。
 どの生き物も無残に、そして原型は留めているものの尋常な殺され方をしている。
 しかしラウル生きていた。
 ある一人の男の身体の下から這い出ると、辺りを見回す。昨夜まではにぎやかで、ただ平凡な日常を過ごしていた人々、いつも元気のよかった市場のおばさん、小さい頃から一緒に遊んだ親友。
 そして、
 ずっと育ててくれたやさしかった父の死体までもが見るも無残に転がっている。もう決して動くことのない体。近寄らずともそれは一目見ればすぐに分かった。
 こんな状況になっても何故自分は生きているのだろうか。
 ラウルは炎で照らされ楽しげに笑う目の前の一人の女を睨み付けた。そして一つ、弱々しい声で呟くように言った。
「何で…父さんを…」
「ははっ、ラウル、まだ生きていたのか。お前も邪魔だ。消え
 ろ」

 女は人差し指をラウルのほうに突き立てる。その瞬間眩しい光がラウルを包んだ。ラウルは瞳を硬く閉じる。














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