走り去るレオではなく、転がったパンの方へと視線を向け、少女はそう呟いた。
レオに家は無かった。路地の奥へ入っていった所に簡単な屋根を設置し、そこで暮らしている。
親や兄弟も、皆死んでしまった。
その屋根の下に座ると全身を激しい痛みが襲う。
身体を見下ろすと全身傷や痣だらけで、それを見ているとなんだか無性に悲しくなった。
「四年前の事だって、亜人に生まれたのだって、僕のせいじゃ
ないっ」
立てた膝の上に両手を組み、顔を伏せる。
「母さん…兄ちゃん…何で」
どれくらいの間そうしていただろうか、家々の間から差し込む光はまだ強い。どうやらそんなに時間が経ってはいないらしかった。
ふとその光が遮られる。
レオが顔を上げるとそこには町長の姿があった。
禿げ上がった頭にでんと太った腹、黒のスーツ。
闇の組織のような妖しげなカッコウをした以下にも偉そうな中年の男。
レオはドキッとする。
|
|
今まで自分が何処に住んでいるのか知られてはいないと思っていた。もし知れれば、パン屋の暴力の比ではないかもしれない。そう思っていた。
本当に住む場所を追われるかもしれない。まだ安全な町から魔物の徘徊する外へと放り出されてしまうかもしれない。
「何しに来たんだよ」
路地奥、逃げ場なしの状況にレオは顔を引きつらせた。
伸ばされた手にびくりと身体を強張らせるとその手は意外にも優しく彼の頭へと載せられる。
レオは戸惑ったように町長の顔をみた。
弛んだ皮膚を歪ませて、彼は笑う。
「居場所が欲しいかね?」
「え?」
頭の上の耳がピクピクと動く。問いかけられた意味にが解らずレオは顔を顰めて聞き返した。
「君に仕事を頼みたいのだよ」
「仕事?」
「そうだ、町を抜けたとこに有る森にいって薬草を取ってきて
欲しいんだ。もし取ってくる事ができたら、君に居場所を上
げよう。そう、町民として認めてあげよう」
町民として、それはレオが待ち望んでいた事。怯えることも
前へ 閉じる 次へ
|
|