天空の歌姫



              天空の歌姫

 いつも通り街に仕事に行く途中、いつも通り通る森の前で少年は足を止めた。風に乗せて聞こえる透き通るような歌声。少年の足は自然と森の方へと向いていた。奥の方までつられるように歩いていった時、ふとその歌声が止む。
「はわわ、どうしましょう。やっぱり駄目ですう」
 歌声と共に一度止めた足だったが声を聞くなり少年はまたその主の方へ向かっていった。目の前の高い草を掻き分け、そしてたどり着いた所。そこに一人の少女が蹲っていた。
薄いピンク色の髪の少女。
「きゃああ、人間!?」
 音に反応するように少女は勢い良く振り返り少年を見ると顔を真っ青にして手を頬に当てて叫ぶ。
 少年は少年で少女を指差し口をパクパクさせながら驚いていた。
 少女の背中からは普通の人にはありえないもの、大きな純白の翼が生えている。たまにピクリと動くそれはどう見ても本物にしか見えない。少年はごくりと唾を飲み込むと思い切って目の前の少女に向かって話しかけた。
「君は…天使?」
「はわわわ、正体までばれてしまいました。どうしましょう」

 少女は衝撃を受けたような顔をして慌てて逃げようとする。
 少年は飛び去ろうとした少女の腕を慌てて掴むと言った。

「待って!さっき歌ってたのって君?」
「わわわ、放してください」
 必至でその手から逃げようとする少女に構わず少年は続け
る。

「すっごく綺麗な歌声だったから、だからその人に会ってみた
 くて」

 その言葉を聞いたとたん少女は暴れるのを止め、顔を輝かせると少年の方に顔を近づけ嬉しそうに言った。
「ほほほ、本当ですか!?そんな事言われたの初めてです。嬉
 しいです!有難うございますう」

「やっぱり君だったんだね」
 少年は嬉しそうに微笑む。
「ああっ!人と関ってはいけないのに…はううう」
 少女はまた大変だと言う顔をして、そして固まっていた。

 今更仕方がない、と言った様子で少女は抵抗するのを止め、そしてその場に腰を下ろした。
「わたくしリーシャといいます。貴方のおっしゃる通り…天使
 です」

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