天空の歌姫



「本当に天使っていたんだ…あ、俺フェイって言うんだ。でも
 天使の君が何故此処に?」

「…いつも通り歌の練習をしていた時、地上からとても美しい
 歌声が聞こえてきたんです。それで…思わずぼーうっと聞い
 ていましたら、その、足を踏み外してしまって…そのまま戻
 ればよかったんですけど不覚にも気を失い、来がついたら天
 界と地上の境を抜けてしまっていましたの…なんてどんくさ
 いのでしょう」

 なんとフォローしていいのかフェイは一瞬戸惑ったが、すぐに話題を見つけて話始める。
「あ、あのさ。翼あるんだし、帰れないの?」
「それがそのう、わたくしたち天使は歌を歌う事によって天界
 への扉を開くんです。でもわたくしまだ半人前で…歌が天に
 届かないんです。こちらに来ている天使様に会うか、自分で
 頑張るしかないんです」

「地上で天使を見たって言う話は聞かないけど…?」
「一人前になれば人と同じ姿になる事は可能ですから。だから
 わたくしみたいな半人前は地上に来てはいけない掟なんで
 す」

「じゃあとにかく練習あるのみか。あんなに綺麗な声で駄目な
 んて厳しいね」

 リーシャは頬を染めながら答える。

「そんなに褒めないで下さい。一人前の天使の歌声はわたくし
 の比ではありません。あ、でも人間にも一人だけいらっしゃ
 います!」

「え?知ってるんならその人に教わればいいんじゃない?」
「いえ、誰かはわかりません。わたくしが天界で聞いたあの歌
 声です。あれは天使のものではありませんでしたから」

「ああ、君が落ちた時の…」
「もう!そう言わないで下さいな!!」
「あはは、ごめん」
 頬を膨らませるリーシャに笑いながら誤るフェイ。
「ああ!!」
 しばらくそのほのぼのとした雰囲気が続いたかと思うと、フェイはいきなり奇声を上げて立ち上がった。
「ななな、なんですの!?」
 リーシャは心臓をどきどきさせながら驚いた様子でフェイを見る。
「俺仕事行く途中だった!」
「仕事?」
「そ、オルゴール店で働いてるんだ!そうだ、明日また持って
 くるよ!凄く綺麗な音なんだ、それと君の歌を聞きにね。じ
 ゃ、また」

               前へ   閉じる  次へ