200年目の鐘



怖いと思っていたのは事実だから否定はできない。だから答えなかった。しかし、ラウルは笑わないから怖いと思っていたのではない。それだけははっきりしている。
ラウルの言葉を聴いていないのかリラは続けた。
「でも、今は…」
「違っ」
 言いかけたとき、ラウルは立ち上がるとリラの肩を強く掴
み、勢いに任せて押し倒した。

「え…?」
 リラはたちまちバランスを崩し、二人は水の上へと倒れこ
む。

 そのラウルの背の後ろを何かが素早く通り過ぎていった。
 激しい水しぶきがたち、ラウルは瞬間的に、沈む、そう思ったが、不思議と身体は沈まずまだ水の上にあった。
 それを確認すると、ラウルは身体を起こしリラから手を離
し、今自分たちを襲ったものと対峙しようと振り返った。

 その瞬間、急に足場をなくし、バランスを崩す。落ちていくような感覚。さっきまで浮いていた筈の自分の身体が、水の中へと沈み込んでいた。
「がぼっ」
「ラウル!」
リラはすぐに身を起こすと、沈みかけていたラウルの手を、必

必至に掴んだ。
 その時だ。急に身体が軽くなり、ラウルは再び水の上、大気中へと浮上した。水の上に膝と手を付き、息苦しさで激しく咳き込むと、だんだんと息を整える。
「ラウル、大丈夫ですか?」
 心配そうに見つめるリラの方を見て、きつく眉を寄せながら笑った。
「ああ、なんとか。さんきゅ」
 その様子を見てほっとしたようにもとの表情に戻ると、リラは言った。
「私の手を、決して離さないで下さい」
「そういう…事か…」
 握られている手と、さっきのことを思い出して、ようやくラウルは納得した。
(水の上に居るのは、この水が特殊な訳ではなく、リラの力、
 つまり精霊の力と言う事か)

 ラウルははっとした。さっき襲ってきたものが、再び自分達めがけてやって来るのを見た。
 今まで繋いでいた手を反対の手へと握りなおし、立ち上がると右手で剣を抜いた。
 突っ込んできたのは、透き通った鳥。案外単純に向かってく
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