200年目の鐘




 眼が霞む。実際のところ、ラウルの顔などもう殆んど見えては居なかった。

 高い高い天井を、その焦点の合わない瞳で見詰めながら、リラは呟いた。
「急所を外したとはいえ、良くこんなに喋れたかと思うと…自
 分でも関心してしまいますね。…ラウルは、嘘をついたこと
 怒るでしょうか…」

 眼を閉じ、再び開く。
(約束を守れなくてごめんなさい。私…泣いているの…?折角
 合えたのに…もう…それが悲しいのでしょうか…?)

 リラは高い天井に向かって腕を上げた。涙で歪んだ瞳で、ましてや逆光で影しか見えない血にまみれた手の甲を見ながら何かを求めるように。
(でも…)
 目じりから溢れ止まらない何か暖かいものが流れ落ち、赤と透明とが混じるがやがて赤に戻る、それの繰り返し。
(でも…またいつか会えますよね?きっと。だって、会えるは
 ずも無いのに、会えたのですから。奇跡はきっと再た…)

 そして崩れるように腕を落とす。
(もう…限界ですね。…どうか…ラウルに…精霊…の…加護が

 …あります…よう…に…)
 リラは一人、光の消えていくその瞳をゆっくりと閉じた。


















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