200年目の鐘



「今年は可愛い甥のためにおじ様は何をプレゼントしてくれる
 のかな?」

 楽しそうに言うクロノスに、ミレルは時計塔を見ながら優しい笑顔で言った。
「きっと素敵なものよ」
「コラーお前ら!!何処でさぼっとるんじゃー!!わしにだけ
 任すんじゃないわいっ!!」

 城の中からの突然の怒鳴り声。
「やっば、モーガリスかんかんだよ」
「だから先に言っておろうが」
「モーガリスの事なんかいってませんー」
「ほらほら喧嘩しない。モー君怒ってるから行くよっ」
 喧嘩を始める二人の腕を掴み、引きずるようにして三人は去っていった。

 見晴らしのいい海の見える丘。その先に一つの石碑が置いてあった。
 ラウルはそこに紫色の小さな花を添えると静に腰を下ろし、星を見詰めた。
 風に髪が揺れる。
 石碑に視線を戻すと静かな口調で語りかけた。
「もう200年も前なのに、まだ実感がわかないんだ。君が居

 なくなったときの事、しっかりと覚えてる。父さんの時も泣
 かなかったからなあ。もしかしたらまだ受け入れてないのか
 もな。俺、前に進めてるのかな?」

「だから、だから私がここにいるのですよ」
 一瞬はっとした。空耳だろうか。だが背後には人の気配があった。
 ゆっくりと振向き、呼んだ。その名を。
「リ…ラ…?」
 肩までの短く茶色い髪、こげ茶色の瞳、外見は全く違うのにその身に纏ったあの波動はリラのものだった。
 リラは優しく微笑んだ。
 あの時には見られなかった笑顔で。
「久しぶりですね、ラウル。尤ももうリラじゃないんですけど
 ね」

「ああ、久しぶり」
 ラウルもつられて微笑んだ。
「やっぱり星は綺麗ですね」
 空を見上げる。
 ボーン、ボーン…
 その時、12時を告げる重い鐘の音が辺り一面に響き渡っ
た。

               前へ   閉じる  次へ