天空の歌姫



 フェイはそう言うと駆け足で森を去っていった。
 リーシャはその背を見送りそして見えなくなると、翼をゆっくりと動かし木の上へと降り立った。
 何処までも続く空、そしてその遥か上空にある見えない天界を見据えながら。
「半人前は深く人と関ってはいけない。でも…初めて私の歌を
 綺麗だと言ってくれた者。今更…ですよね?」



 街には声が溢れていた。機械から流れる本物の人の声。魔術により人から抽出したそれは機会で録音したどんなものより
も、永遠に衰えることなく美しく鳴り続ける。ただし、声を抽出された者は二度と己の声を出す事はできなかった。がしか
し、声は高く売れるため、生きるために自ら提供する者もい
る。これは提供者の同意があれば決して違法ではない行為だった。高価な故に金持ちしか買わない、金持ちの道楽になる機
械。

 同意があれば違法にはならないが、しかしこういう金になる物には必ず卑怯な手段で無理矢理手に入れようとする者も出てくるのが現状だった。
「いつ聞いても気分悪っ。生の声が機械から、なんて気持悪い
 だろ。絶対違法してる奴おおいよな……声を取り戻す事がで

 きるのはこの世に三人しかいない魔道薬師だけ…か」
 フェイはそうつぶやくと、足早にその場を抜けると自分の働いている店へと駆け込んだ。
「すみません!遅れました!!」

 それから毎朝リーシャの元へ向かい歌を聴いてから仕事に行くのがフェイの日課になっていた。夜には彼女が聞いているのかフェイのオルゴールが森の中で鳴っている。
 しかしリーシャの歌が天界に届く様子は全くなかった。やはり師がいないと駄目なのか、そう真剣に考えるようになっていたそんなある日。フェイがいつも通り森へ行くと、リーシャの歌声は聞こえてこなかった。もう帰ってしまったのか、そう思って慌てていつもの場所へ向かうとリーシャはまだそこに居
た。ほっとして近くまでより尋ねる。

「今日は歌わないの?」
 リーシャはただ悲しい微笑を浮べて首を振った。
 フェイは心配そうにその顔を覗き込む。
「声、壊した…とか?」
 リーシャはまた黙ったまま、よわよわしく頷いた。
「そっか…じゃあ帰りに薬でも買ってくるよ。天使に聞くかは
 解らないけど」

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