DEEP-SEA KING



駆け抜けようとしたその時、探していた声に振り返る。
 人のそれとは違う色の眼、尖った耳、良くわからない形をした翼の様なモノを背中から生やし、鋭い牙を覗かせながら笑う者。
 紅夜はそれの前に座り込み、兎をきつく抱きしめながら怯えた表情で樹里を見た。
「妖怪!?紅夜!」
 弟の無事に内心安心しながら駆け寄ると、妖怪と彼との間に立ちふさがる。
 睨み付ける樹里の目を笑わないその瞳で見返し、それは言った。
「お前が樹里だな」
「……」
「俺の部下がずいぶん世話になったようだ」
「部下…だと?」
手で紅夜に離れるように支持を出す。
「ああ、俺達の間では有名だよ。仲間を殺しまくっている女が
 いる、となあ」

 それがにたりと笑った時、樹里は後ろに飛んで距離を置き、肩にかけてあった弓を引き、その一撃を妖怪へと放つと、すぐさま紅夜の元へと走る。
 どこからか現れた光の矢は、妖怪の顔の横を通り過ぎ、そし

そして消えた。
樹里が外した訳ではない。至近距離で打たれたはずのその矢
を、妖怪がやすやすと交わしたのだった。

「ふん、霊力の矢か」
 妖怪は鼻で笑うと弟を庇う樹里をそこから見詰めた。
「妖怪が何故…仇だと?」
 弓を構えながら問いかける樹里に妖怪は見下した視線を向け低い声で言った。
「我は破滅を望む者。全ての闇の上に立つ。我が願いを阻止す
 るお前は邪魔なのだよ」

「…お前は…」
「あ、ウサギさん、だめですよ!今は!」
 言いかけた樹里の言葉を遮るように紅夜が叫んだ。
 紅夜の腕の中から飛び出した兎。
「紅夜!駄目!」
 止める間も無く樹里の背後から紅夜は飛び出していた。
 
妖怪はそれを見逃さなかった。口と瞳孔をいっぱいに開き、笑った。手を走る紅夜の方へ向けると、どす黒い負のエネルギーを彼の方へ放った。
「!?」
 間に合わないっ、心の何処かでそう思いながらも樹里は夢中
                 前へ   閉じる  次へ