で走っていた。
ウシナウワケニハイカナイ。ワタシノタイセツナ…。
音がした。
激しい光と耳が痛くなるほどの轟音が、紅夜の後ろで響い
た。
振り返る前に、何か暖かいものが自分の上に降りかかってくるのが分かった。
同時に自分の上に覆いかぶさって来るモノ。
「…え?」
その頬を、優しい手が包み込んでいた。
「私の大切な…弟…」
微笑と共に視界から消えたその顔。
あっち側に居る妖怪は歓喜の色を浮かばせながらにたりと笑うと闇の中へと消えていった。
何が起こったのか判らなかった。
自分の顔を指でなぞると、べっとりとした赤いものが指に纏わり付いて来る。
ただ訳も分からずただ首を振っている自分が居た。何も見たくなかった。だが、見ずには居られなかった。自然と眼が下へと向く。
予想していた通りの現実。血にまみれながら倒れている姉の姿。 |
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「ねえ…さま…?」
震える手でその身体に触れると、横になって倒れていたそれは、力もなく仰向けに転がった。
「ぼ…ボクの…せいだ」
悲しみと、罪悪感と、負の感情でいっぱいになったその瞳から、涙が溢れてきた。
血まみれになった姉の最後の笑顔と妖怪の笑った顔が頭から消えない。耳鳴りがする、頭が痛い。
「ご、めんな…さい」
うわ言のようにその言葉だけを繰り返し、近寄ってきた兎にさえも眼もくれず紅夜は頭を押さえると、眼を閉じて思いっきり叫んでいた。
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