殺気立った血のように赤い瞳に見つめられ、ラウルは一瞬じろいだが、ごくりと唾を飲み込むと強張った頬の筋肉を緩め
た。
そして、震えているのを悟られないように口を開く。
「君は…マリアじゃない」
リラは眉を顰めるとそのままの瞳で理由を問いかけた。
「何故そう言い切れるのです?」
喉元に押し付けられていた刃の先をその指で押し戻しながらラウルは答えた。
「俺はマリアを良く知っている。マリアなら問いかける前に俺
を切り裂いているさ」
「……」
「あの時、俺は確かにマリアに攻撃された。でも、眼を開けて
みると俺は生きていた。あの場で殺されていないのに此処に
いる。マリアが時の一族だと言う事は知っていた。だから此
処が未来だと言うのも時を渡ったと言うのもあながち信じら
れない話でもない。それに、どの道現在の状況が分からない
んだ。騙されていたとしても、それに従った方がいいだろ
う」
「……マリアは…」
小声で言ったリラの声ははっきりとは聞き取れず、ラウルはそのまま聞き返す。
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「え?」
リラは下を向いて首を振ると、真っ直ぐラウルの眼を見て答えた。
「いえ、分かりました。そこまではっきりしているのなら問題 はありませんね。試すような事をして申し訳ありませんでし た」
「いや」
そこで会話は途切れ、リラは無言でラウルの横を通り過ぎるとすたすたと歩いていった。
ラウルはその後をやはり無言で着いていく。前を歩いていくリラの背中を見つめながら、先ほどの出来事を思い浮かべていた。
あの赤い瞳に見つめられた時、正直生きた心地がしなかっ
た。なんだか身体の奥から凍ってしまうようで急いで笑って誤魔化した。突き付けられた短剣よりも、その瞳で、視線で殺されてしまうような感覚。確かにリラに言った言葉に嘘はない。
しかし、ラウルは彼女にわずかな恐怖を覚えていた。
ふと、リラが足を止め振向いた。
ラウルは一瞬びくりと身を強張らせ思わず口走る。
「な、何も考えてない」
「はい?」
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