200年目の鐘



気味な泣き声をあげながら、向かってきた。学習能力があるのか、鳥は振り下ろされた一撃目をひらりとかわす。だが、ラウルは一歩踏み出すと、振り下ろした剣をそのまま斜めに払い、右の翼を切り裂いていた。
 今度は水を被ることはなかった。悲鳴の変わりに水が蒸発する時の音を立てて鳥の翼は一瞬の内に姿を消した。
 また、辺りには煙が立ち込めている。
(なるほど)
 ラウルは微笑を浮かべながら納得した。
(あの程度の水ならば火、もとい熱で十分蒸発させられるとい
 う訳か)

 片翼をなくした鳥は、バランスを崩しながらも再び天井へと戻っていった。しかし今度は向かってくる様子が全くない。
「通っていいって事じゃないのか?」
「どうでしょう?」
 ラウルはリラの手を引くとそのまま進むべき扉へと向かっていった。
 しかし、右手でその戸を押すが全く動かない。
 今度はリラ共に押したが、それでも動かず。仕舞いには身体まで使って押そうとしたが、それでもその扉が動く事はなかった。

「あれを倒さなければ先へは進めないようですね」

「ああ、だけど…あれ、降りてくるのか?」
「とにかく、降りてこない事にはどうしようもありません。待
 ちましょう」


 暫くの間、二人は待っていた。しかし鳥が降りてくる気配は未だ全くない。
「…っ」
 握っていた手に痛みが走り、リラの方を振り返ると、彼女の顔は不快に歪んでいた。
 ぎりぎりと握りつぶされる手を離すわけにも行かず、ラウルはその苦みにじっと堪えていた。
 ふと、その手が緩んだ。
 開放された事にラウルはようやく安堵し、その意味を確かめるようにリラの顔を見ると、黙って彼女の言葉を待った。
「こんな事をしている場合ではありません。仕掛けましょう」
「仕掛ける?」
「ええ、ラウル、こちらへ」
 今度はリラがラウルの手を引き、部屋の中心へと走っていった。
「此処で、剣を構えて下さい。こう、斜めに」
「ああ」
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