どうしようとしているのかは分からなかったが、ラウルはとりあえずリラの言葉に従い、斜め上に向かって剣を構えた。
そしてその格好になって初めて剣の軌道上にあの片翼の鳥が居る事に気づく。
「いきますよ」
リラは再び口の中で何かを呟くと鳥の後ろの方から物凄い風が吹いてきた。
そして鳥は抵抗しながらも片翼では風に逆らう事も出来ず、確実に二人の方に流されている。尤もこの風では翼がきちんと揃っていても抵抗する事は出来なかっただろう。
一方ラウルは激しい空気抵抗にあまり息をまともにつく事も出来ず、苦しい思いをしていた。それでも喋る事が出来たのは目の前の剣が風を切っているのか、リラがやっている事なの
か、それは分からない。
「リラ、やりすぎなんじゃ」
「この位でなきゃ一度で倒すなんて無理です。また逃げられて
しまいます!」
「でも、この風。片手じゃ剣が支えられない」
良く見るとラウルの手と剣は風の抵抗で激しく揺れていた。確かにこれでは目標を定める事は出来ない。
リラは目を細めると、ラウルに両手で剣を握らせ、自分は後ろから囲むように共に剣を握った。
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「え、なっ」
「しっかり前を見て下さい。これで大丈夫ですね?来ますよ」
突然の事に驚き戸惑うラウルをよそに、リラは全く気にせず言ってのける。
確かに安定はしているのだが、この体制には少し抵抗があった。
しかしそんな事も言ってられず、ラウルは仕方なく前を見据えた。
もう鳥は間近に迫っていた。
風の軌道から逃げる事が出来ない鳥に、ラウルはしっかり
と、確実にしとめられる場所に剣を固定する。
じゅううっ。
空気の流れと、熱を帯びた剣に挟まれ、鳥は跡形もなく消え去った。
風も止み、周りには先程とは比べられない程の蒸気が立ちこめていた。またそれがなくなると、蒸気に熱せられた身体は一瞬の内に冷め、ラウルはぶるりと身震いをする。
リラはいつの間にかラウルの横で、彼の手を握りながら、乱れた髪と衣服を整えていた。剣の熱もまたいつの間にかひいており、ラウルはそれを鞘に収めると同様に身支度を整える。
「もう通れる筈です。行きましょう」
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