200年目の鐘




 なんとも言えないような不思議な感覚に飲まれたかと思う
と、彼らは次の瞬間霧の濃い森の入り口に立っていた。

「この先に、時の神がいる」
 ラウルはそう言うと森の中へと走り出す。
「ちょっと待て、ラウル、どういうことか説明してくれんか
 の?」

 走りながらモーガリスが聞いた。
「ここは、約900年前の世界なんだ」
「九百年前!?どういうことだ?」
「俺達はユリアによってあの時飛ばされたんだ」
「…ユリアとは誰なのだ?」
「あれは俺の母さんじゃなかった。その双子の姉、ユリア」
「双子の姉!?うー、頭がこんがらがってきたわ」
「んで?」
「だから時の神の力を借りてもとの世界に戻る!腕輪も精霊石
 も俺が持ってるから」

「ってことは今リラは…?」
「超ピンチってやつかね?」
「そういうこと!」
 走ってたどり着いたところ、一つの人影。
 目の前には紺色のローブを纏った茶髪の青年の姿があった。

 その手には藤の木でできた杖を握っている。
「貴方は?」
「私は時の神、ウェン」
「貴方が?」
 時の神、というよりかは魔法使いという印象を受ける格好にラウルは一瞬と惑ったが、あえてそこには触れないことにし
た。

「そうだ。お前は…ラウルか」
「何で、俺を?」
 時の神はラウルの質問には答えずに言う。
「本来故意に時を弄る事は禁じられているのだが、ユリアの問
 題は私の責任でもある。お前達は未来に帰りたいのだな?」

 黒く冷たい瞳が刺すように一同を見詰めた。だが、しかし、九人は確かにそしてしっかりした声で、
「はい」
そう答えた。
「分かった。他の者は返そう。だがラウル、今回の問題、マリ
 アの仕業ではない。お前には直接関係ない。あの時代もお前
 の時代じゃない。それでも、行くと答えるのは何故だ?」

 ラウルは一度瞳を閉じ、そして真っ直ぐにウェンを見詰めるといった。
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