200年目の鐘



「お…のれっ、小娘が!!」
 乾いた音を立てて短剣が床へと落ち、跳ねながらさらに階段を降りて一番下の床でようやく彼は止まる。
 リラはその場に膝を折り、そして倒れた。赤くどろっとした血だまりをつくりながら。
「!?リラ!?」
 ちょっとした階段を駆け上がり、ラウルはリラの元へ駆け寄るとその身体を仰向けになるよう反転させた。
「リラ!?」
 再び叫ぶとリラはゆっくりと瞳を開け、そして握り締めた右手をゆっくりと彼の方へ差し出す。
 ラウルは手とリラを見比べそしてその手を握り返し中のものを受け取ろうとした時、彼女の手が強くラウルの腕を掴ん
だ。

「わ…し…リ……ズ…ド………ラ…ル……スタ…おー…しょー
 …す」

 そう良くわからない言葉を呟くとそして床の上に投げ出すようにその手を離す。
 彼の手の中には不思議な光を放つ石があった。
 ラウルが不思議そうにそれを見詰めていると突然リラが口を開いた。
「…ユリアは…私の中から抜け出て逃げました」

「リラ…?」
 顔を僅かに動かし、ラウルの方を見ると続けた。
「彼女はおそらく、時の神の元へ…」
「リラ、喋るな。今リノを呼んでくる」
「聞いて」
 立ち上がり去ろうとするラウルにリラはか細い声で、しかしはっきりとそう言う。
「でも…」
「お願い…です。時間があり…ま…せん」
 ラウルは一瞬迷ったがリラのしっかりとした強い瞳を見つ
め、そしてそこに再び膝を折った。

「有難う…ございます。ユリアは…」
「でも、石はここだし。身体をのっとるのは無理だ」
「彼女は、その石を錬成した時…に…精霊を…その身体に取り
 込…ん…だ…。身体を乗っ取ることはできなくても…殺す事
 はできるかも…しれま…せん…」

「殺す?ユリアの目的は支配だろ?殺してしまったら…」
「これは…復…讐…」
「復讐?」
「彼は…もう…最後の生き残り…王よりも…大切な人…貴方の
 たった一人の…殺させない…で…。その石で…ユリアを…」

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