DEEP-SEA KING



「私は火乃杜。季瑠の造った者」
「季瑠の造った…?」

 不審気に聞き返す。
「そう、私は生き物ではない、人形…」
「そうは見えないけどなあ」
 呟くよういに言った悠真見て、笑いながら少女は言った。
「当然だな。季瑠は私を本当の人のように造った。肌、髪、
 眼、感情、全てが限りなく人に近い。だが、私は人ではな
 い。故に求めるのだ。深海の王を」

「深海の王…?」
「そう、深海の蒼き王」
「蒼き王!?何か知っているんですか!?」
「遥か東、空に浮く島にそれはいる」
「東…」
 少女は真剣に考えている紅夜の顔を覗き込んだ。それに気づき、紅夜は眉を顰める。
「何ですか?」
「…お前が私を目覚めさせたのか?名は何と言う?」
「不本意ですがそうですよ。私の名は紅夜です」
「そうか…似て居ないな」
「は?」
「いや、私はもう行く」

「行くって何処へ」
 少女は再び馬鹿にしたように笑い言った。

「さっき言った事をもう忘れたのか?深海の王の所だ」
「っ忘れていませんよ!」
 怒りながらも講義する紅夜を無視して去ろうとする火乃杜の背中に悠真は声をかける。
「俺達も蒼き王の所へ行くつもりなんだ。一緒に行かない
 か?」

少女はゆっくりと振り返ると言った。
「私は人形。決して人と深く交わる事はない。…そういえばお
 前、名前は?」

不意に聞かれて悠真は慌てながら答えた。
「俺?俺は悠真」
「…覚えておこう」
 そして再び向きを変え去っていったが、その背中は何処か寂しそうに紅夜の眼には映った。
 しばらくその方向を見てたが、隣で肩を落としている悠真に気づくと疑問に思いどうしたのかと問いかける。
「だってさ、折角花が入ると思ったのに…」
 その言葉を聴き馬鹿らしいと思いながら、もう寝ようと紅夜は借りた寝所へと戻っていった。
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