黄昏の金色竜



 少女はただ黙って立ち尽くしていた。
 ケイは動こうともしない少女に苛立ちを感じその手を引こうと触れたときだ。
 自分が自分でなくなるような、何だかとてつもなくいやな感じがしてその手を反射的に引っ込めた。
――何だ?今の。
 少女は不思議そうな顔をして彼を見つめる。
 その時だ。
 気絶していた筈の見張りがいつの間にか意識を取り戻し、ブザーを押した。
 けたたましい音に、ケイははっと我に帰ると見張りの腹に一発けりを入れ、再び昏倒させると少女を促す。
「早く!」
 今度は少女の手を引こうとしなかったが、彼女はケイの言葉に従い牢を出た。
 それを確認するとケイは牢と廊下との扉を開けいらなくなった鍵を放り出すと、
「俺が言いというまでここからでるなよ」
 それだけいってその戸を蹴り開け勢いよく飛び出す。
 ブザー音が響く中、いきなり開けられた戸に驚き、一瞬構え遅れた警備兵に容赦なく銃弾を浴びせる。
「今だ、走って!」     

 少女に向かって叫び、また彼女もその声に従いケイの後に続いた。
 狭く長い廊下。その十字路にたどり着いた時、彼は彼女を左手で制止壁に背を向け警戒の眼差しで向こうを見やった。
「今から何処へ行くの?」
 少女の問いかけにケイは視線をはずさぬまま、答える。
「格納庫。実はあの正面のドアなんだ」
「……」
「…い、いいから行くぞ。今なら何とかなりそうだ。こっちの
 人間も村人達がいるせいで対応が遅れてるはず」

 二人はそのまままっすぐ走りぬけ、質素な扉の前に立った。そのドアには表示も何もない。
 少女は牢の目の前にこの部屋があることに納得した。
 ここの人間でなければ何処がどの部屋か分からない、つまりそういうことなのだろう。
「今から鍵、壊すから誰か来るか見張っててくれる?」
「…わかった」
 少女があちらを向いたのを確認し、ケイは先ほど牢の中で使った力を倉庫の鍵穴向けて発動する。
 扉は外見上まったく代わりがないものの、そのノブを回すと扉はすんなりとその命令に従った。
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