「リーシャ…?」
呼ばれて振り返ったその頬には行く筋もの涙が伝っている。
「ちょうどよかった」
フェイは一瞬心配そうな顔をしたがそう言って笑うと小瓶から緑色の玉を出しながらリーシャの方へ近づいていった。リーシャは泣きながら不思議そうな顔をしてフェイの顔を見る。
「ここは俺が仕事用に作った場所なんだ」
言いながらあの店から買った箱のふたを開け、その歌を鳴らした。箱から綺麗な歌声が流れ出す。
「今から君の声を返すから、大丈夫だ」
声はでないけれど、何か言いたそうに開いたその口に先ほどの緑色の玉を入れるとその柔らかい唇に指を当て、そして何か言葉ではない言葉を喋りだした。
緑色の光と風が辺りを包み、下の祭壇には発光した魔方陣のようなものが浮かび上がり、そしてとても綺麗な、この世のものとは思えない声がその耳を包み、森や空に広がっていく。
まるで別の幻想的な世界に来てしまったかのように…。
フェイが詠唱を唱えながら指をリーシャの唇から離すと、箱の中から白く優しい光がふわりと出てきたかと思うと、それは静に彼女の口の中へと吸い込まれていった。
それと同時に周りの空気も光ももとに戻り、辺りは静かになる。箱からはもう歌は聞こえていない。
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「もう声でるはずだけど…うわっ」
いきなりリーシャに抱きつかれ、あたふたしていると、彼女は嬉しそうにいった。
「見つけました。あなたですう。天界にも届く歌声の持ち主」
「え?」
抱きつかれたまま、眼だけをリーシャにむけ聞き返す。リーシャはそのまま答えた。
「わたくしが天界で聞いたのは貴方の声です」
「あれは…歌じゃないんだけど…」
リーシャはフェイから身体を離すと満面の笑みで言う。
「そんなのどっちでもいいですよう。貴方みたいな歌を歌える
人なら関る事を神様はきっとお許しになる筈です」
「はい?」
言っている意味がわからず再び問い返した。
「わたくしに歌を教えてください。天界に帰れるようになるま
で」
「えっと…」
「心配要りません。一人前になったら行き来は自由にできます
から、御礼をしにまた戻ってきますよ。駄目ですか?」
両手を合わせ、懇願するように見詰められ、フェイは戸惑いながら答える。
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